くるり『THE PIER』をめぐる対談 ~すごすぎるぞ、くるり!~ 前編
この音楽だいすきブログは、音楽ファン達の「意見表明の場」であり、そして最近は「語り合いの場」としての側面も強く見えてきたと思っている。ここから繋がった方々が音楽を語り合う姿をtwitterのタイムラインで目撃する事があるが、素直に「良いな」と思う。自分の価値観を他人と共有する事により、世界はもっと広がる。私もこのブログをきっかけにどれだけ音楽の裾野が広がったか。このブログが始まった時、手を挙げて参加して本当によかった。多くの意見を見ることができたし、多くの語り合いと出逢うことができた。
そして今回、私も「語りの場」に参加してみようと思い、この企画を思いついた。くらーくさんをお招きし、音楽について語り合って、それを記事にして掲載する。それを見た人達の価値観や世界がさらに広がればいいな、と思って。そして私の依頼を快く引き受けてくれたくらーくさんには本当に感謝しています。
今回のテーマはくるりの2年ぶりの新作『THE PIER』について。わかりやすく、広がりやすいテーマだと思ったが、予感は的中。本作からくるりの歴史、又2014年の音楽シーンの上での今作にまで話が弾んだ。もしかしたら大したことは言っていないかもしれません。でも私達は、ただ素直な感想を語り合っただけで、これをきっかけに「語り合いの場」がもっと増えればいいな、と思っているだけであります。なので肩の力を抜いて読んでいただければ幸いです。(HEROSHI)
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強く見えた「次世代への意識」
HEROSHI まずくるりの新譜『THE PIER』について、率直にどうでしたか?
くらーく まず「もの凄く聴きやすかった」というのが第一印象ですね。前作の『坩堝の電圧』は最後の「glory days」で締まる感じは好きだったんですけど、なかなか通して聴くことはなかったです。だけど今回の『THE PIER』は、アルバム通しても聴きやすかったですね。
HEROSHI 『坩堝』は長かったですからね。70分近くありましたし。それに、『THE PIER』は一曲一曲がそこまで長くないのも大きいですね。最長が「Liberty&Gravity」で6分半ぐらいですから。
くらーく それにサウンドも耳に優しい感じですね。エレクトロニカの要素あり、ロックの要素あり。前作は非常にギターロックの面を押し出していたけど、今作は電子音の要素もあって。僕が一番驚いたのは、一曲目の「2034」ですね。
HEROSHI あ〜。
くらーく 凄く新鮮に感じたんですね。きゃりーぱみゅぱみゅとすぎやまこういちさんがタッグを組んだような。ここで「今までと違うぞ」と思いましたし。今までくるりのアルバムでインストから始まるものありましたっけ?
きゃりーぱみゅぱみゅ「きらきらキラ―」
すぎやまこういち「交響組曲ドラゴンクエスト 序曲」
HEROSHI 『図鑑』の「イントロ」とかはありましたけど、短かったですからね。3分強のものを持ってきたのは初めてじゃないですか? 私もあのガッツリ聴かせるイントロには驚きましたね。どこか中華料理店に流れてるような。
くらーく なるほど。オリエンタリズムというか、異国感を感じさせるけど、決して遠くなり過ぎないような。1曲目で距離感を感じさせましたね。
HEROSHI しかも「2034」というタイトルが面白い。2020年なら東京オリンピックで分かるんですが、そこから14年後って。そこにくるりの姿勢が伺えるんじゃないかと思ってて。「次世代に向けた」というのが今作のキーワードだと思ってて。
くらーく リスナーだけじゃなく若いミュージシャンに向けても。政治的である以上にミュージシャンとしてのメッセージが感じられましたね。
HEROSHI くるりももう15年以上のキャリアを経てますし、ロックバンドとしてはもうすぐ大御所の域に入りますから。そういう意味で、若手に向けてのメッセージだとも思いましたね。
くらーく twitterで「昔の音楽をググるかどうか」って話題があったんですけど、岸田さんは凄く良いミュージシャンである以上に、良いリスナーであるとも思うんですよね。やっぱりかなりの音楽を聴いてるんだろうな、という豊かな音楽的素養がビシビシ伝わってきましたし。同世代のミュージシャンも刺激を受けるのも頷けますね。
HEROSHI くるりの凄さは、やっぱり常に進化し続ける事だと思うんですけど、それは岸田さんが「くるりのリスナー」であり続けているから成り立つ進化だと思うんですよね。常に過去を清算し続け、見据えた上でどっしり構えてる姿が浮かびます。
「出会いと別れ」を歌い続けるバンド
くらーく ではHEROSHIさんにとって、今回の『THE PIER』はくるりのアルバムの中で何番目に好きですか?
HEROSHI 私にとっては3番目ですかね。1番が『ワルツを踊れ』で、2番が『図鑑』なので。
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くらーく 僕は、『ワルツ』を超えた、と思いましたね。もっと聴きこんだら感じ方が違ってくるのかもしれませんけど。でも初聴の衝撃は、『ワルツ』をぽーんと超えていきましたね。
HEROSHI という事は、1番ということですか?
くらーく そうですね。まさか15年目にして一番の作品を出してくるとは……。スゲーな!って(笑)本作はやっぱり凄く豊かな音楽だと思って。メッセージ性以上に純粋な音楽としてのクオリティーが高いし。あと人間の出会いと別れの感情の変化を非常に繊細に掬い取っていて、一つの作品として非常に奥行きを感じさせましたね。サウンドに立体感を感じて、他の作品とは2Dと3Dの差ぐらいに思いましたし。
HEROSHI 「Remember Me」「最後のメリークリスマス」等のシングル群が非常にアルバムに合っているんですね。ありふれた日常の風景、そこからの旅立ち、異国感を感じさせるサウンド。完璧にアルバムの一部になってましたから。
くるり「Remenber me」
くらーく 本当にくるりというバンドはしつこいぐらいに出会いと別れについて歌っているバンドですよね。メンバーがころころ変わる所から思うところがあるのかもしれないけど。まるでドラクエのような「2034」で旅立ち、「日本海」に着き、「浜辺にて」を経由し、「ロックンロール・ハネムーン」の旅は本格的に幕を開ける。そして「Liberty&Gravity」はカオティックなサウンドと祝祭的なムード、その中に一瞬美しいメロディーと《最初のリバティ それは あなたと過ごした その暮らしで 覚えたグラビティ 泣かないで どうかどこかで 元気でいてね》という別れを明確に表した歌詞。もう、この『THE PIER』だって全部出会いと別れの歌じゃないですか。
HEROSHI 「ジュビリー JUBILEE」に、《歓びとは 誰かが去るかなしみを 胸に抱きながらあふれた一粒の雫なんだろう》という歌詞があったんですけど、あの延長線上にこのアルバムがある気がします。あと、この『THE PIER』のジャケットが凄く好きなんですけど、桟橋に立つ人々が旅立つ、つまり別れを迎えようとしてるんだけど、その向こうには光が差している。悲しみを背負いながらもその奥には絶対に光があるんですね。
くるり「ジュビリー JUBILEE」
くらーく 別れの悲しみだけじゃなく、旅立つ高揚感も見せてくれますね。メンバーは誰一人近くにおらず、独立している。肩組み合ってるような感じじゃなく、それぞれが距離を保ちながら違う方向を向いている。バンドとして理想的な状態じゃないですかね。
HEROSHI 『坩堝~』の最後の三曲「沈丁花」「のぞみ1号」「glory days」が、この『THE PIER』の前哨戦というか、ここから繋がってる気もしたんですよ。この三曲にも「次世代に向けた」というキーワードが当てはまる。そして『坩堝』の異国からの影響を強く受けたくるりの音楽が、この『THE PIER』で完成された、という印象も受けました。『言葉にならない』から『坩堝』の変化には驚きましたけど、今回は正統な進化じゃないですか?
くるり「glory days」
くらーく それも一理ありますが、『坩堝』は「chili pepper japonês」「argentina」のように、異国のサウンドを取り入れようと非常に意識されていた感じがあるんですが、今作は特別にそういう意識を持たず自然と生まれたサウンドという気もしますね。『ワルツ』はよくロックとクラシックの融合という評価がされてますけど、僕は融合というより、両者が最初から一つだったという証明の為に垣根を外した音楽だと思っていて。そしてそれは本作にも言えると思うんですけど、世界各国の音楽がごく自然に混ぜ合わさってるんですよね。あの自然さには驚きました。
HEROSHI 私も「ブレーメン」はロックとクラッシクの最大飽和点だと考えています。そして今回はくるりの音楽と世界の音楽との最大飽和点どころか、それらを全てひっくるめて「くるりの音楽」にしてしまっているんですよね。影響だの何だのと言う以上に、新たなくるりの音楽を定義付けられた気がする。
くらーく この次はどうなるんでしょう(笑) もしこんなクオリティの作品を次も出してくれたら、また愛聴盤になるんでしょうね。次の一手はしんどいんじゃないでしょうか。
(後編に続きます)
HEROSHI(@HEROSHI1111)×くらーく(@since_i_left_U)