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Base Ball Bear『二十九歳』

どうも、まっつでございます。今回は、発売されたばかりのこのアルバムのレヴューです。

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いろいろな媒体でG&Voの小出さんが「『普通』がテーマ」と語っていますが、その歪なこと歪なこと。少なくとも僕はこのアルバムを「普通」という視点から捉えることはできませんでした。聴き終えて残ったのはむしろ「人間ってのはわけのわからない生き物だな」という感覚であります。でもきっと、ここでいう「人間」はそのまま「普通」というワードに互換可能なのだろうとも思いました。つまり「普通というのはわけのわからない概念」ということ。曖昧で範囲も広そうだし、その範囲もきっと人によって違うだろうけど、なんとなく「逸脱してない様に見えること/もの」に対して僕らは「普通」と名付けている。そういった「普通」という言葉の中身、その実相を小出さんは描こうとしたんじゃないかな。

僕はこのアルバムを「普通」だとは思えなかったけど、そんなブラックボックスな概念が詰まっているからなのか、言いたいことはたくさんあるのに「このアルバムはこうだ!」と断言する事も出来ない……ような作りになっているなあ、と、聴き終えてから思いました。

そう、聴き終えてから。

と言うのも、聴いている間はそんな小難しいことを考える暇もないくらい曲そのものが格好良いですし、曲と曲の歌詞のリンクもまた秀逸なのです。これだけ「行間を読むこと」が楽しいアルバムは他に無い、と感じました。

まずサウンド面から言うと、前作『新呼吸』で見られたシンセの様なギターサウンドや「yoakemae(hontou_no_yoakemae ver.)」での無機質なグルーヴに代表される、生楽器による実験的なサウンドは若干鳴りを潜め、70年代ハードロック〜90年代ガレージや邦楽オルタナティヴロックを咀嚼した、構築的でありながら人を盛り上げる力もある、非常に肉体的な音の塊が耳に飛び込んできます。個人的な白眉は「UNDER THE STAR LIGHT」。どことなくDeep Perpleの「Burn」の匂いがする、昨今氾濫する四つ打ちナンバーへのカウンターとしての四つ打ちナンバー。最高です。

こちらで全曲のティザー映像が見られます。「UNDER THE STAR LIGHT」も1サビまで聴けますよ。

Base Ball Bear|約3年振りに発売するニューアルバム『二十九歳』特設サイト!

歌詞に関してはここではなるべく引用したくないのでそのものには触れずに少し喋ると、このアルバム、一曲一曲それぞれにもキラーフレーズはありますが、先程も少し触れた様に曲と曲の歌詞のリンクが素晴らしく、序盤の楽曲で歌われた何気ないフレーズが、後半になって伏線として浮かび上がってきたりする、非常に物語的な構造になっています。2回以上聴くとそれがよりよくわかります。このあたりは『新呼吸』にも見られた傾向なのではないでしょうか。個人的な感想を書くと、2回目に通しで聴いた時に僕は「ファンファーレがきこえる」や「UNDER THE STAR LIGHT」の歌詞が怖くて仕方なかったです。

このアルバムは全16曲という大ボリュームなのですが、その主人公たち(それは恐らく小出さん自身)はみんな、とにかくどこかに振り切ることができずに「真ん中っぽい所」でウロウロしている様に見えます。なんなら主観と客観すら入り乱れます。そして「普通」という曖昧だった筈の概念が極限まで突き詰められた先に、終盤の「光蘚」「魔王」が現れます。この2曲でアルバムの主人公はようやく、ある方向に考えを突出させていく、ある種の自己実現を達成するのです。言い換えればこのアルバムは、普通である事を自覚していた主人公が自分なりに、そこから抜け出す為の方法論を獲得していく物語なのではないでしょうか。かつて「Aでもない、Cでもない、その狭間でモヤモヤしているBな生徒の為のクラス」の講師であった彼自身も「Bな生徒」であり、そんな彼が見つけ出した方法にはグッとくるものがあります。彼は仮面ライダーではなく、神崎士郎やオーバーロードになる道を選んだのでしょう。

……なんだかこれ以上言うといい加減、歌詞に踏み込まないと喋れない気がしてきたのでこのあたりで止めておきます。本当に、このアルバムに関してはベラベラ喋っちゃいけない気が今になってしてきました。ぜひ手に取って、通して聴いて頂きたいです。

最初に「このアルバムはこうだ!と断言する事もできない」と書きましたが、レヴューという性質上、無理矢理にこのアルバムの総合的な私見を述べるなら、ここにコンパイルされているのは「出る杭」になれない人の歌であり、「出る杭になれない」という事を異常に気にしてしまう人の叙情詩なのではないでしょうか。そしてそれこそが、小出さんが思う「普通の人」の姿なのかな、と。

『二十九歳』、1stで見せたギターロックへの憧憬をアップデートし、インディーズや2ndで描いた青春を屍にする事なく「2014年の僕」として昇華し、3rdで対峙した「己の壁」という面倒なものをさらに掘り下げ、3.5thの「僕らがやりたいロックミュージックとは何ぞや?」を探求するためのセルフプロデューススキルを余すことなく発揮し、4.0thで描き切った「新しい日常」のレンジを更に広げた、つまり、これまでの挑戦を全て踏まえたすばらしいアルバムだと思います。

Base Ball Bear「そんなに好きじゃなかった」

 

 

まっつ(@HugAllMyF0128

まっつのブログって名前、氾濫しすぎだろ‼