転校生『転校生』
昨年、活動休止・解散したアーティストでは、andymoriの件も残念だったが、転校生の「登校拒否」も残念だった。今年の5月22日に久しぶりにツイッターでつぶやいてくれたことは、僕にとって嬉しい出来事だった。最近は、「それでも世界が続くなら」というバンドのプリプロを手伝ったり、何も考えずに歌ったりして楽しんでいるいるらしい。
この記事では現在、転校生が唯一残しているアルバムである『転校生』について感想を書いてみたい。
『転校生』は、2012年5月2日にリリースされた1stアルバム。
「転校生」は、熊本県出身、埼玉県在住の水本夏絵によるソロプロジェクト。
高校時からいくつかのバンドでボーカルとして活動していたが、2009年にソロ活動をスタートさせた。Myspace上の楽曲を聴いたレーベルスタッフから誘われ、関東に拠点を移す。
学生時代はaikoの音楽に夢中になり、音楽的にはリリイ・シュシュ、スーパーカーやシガーロスが好きだという。
デビューに際して、キリンジの2人や、夢眠ねむ(でんぱ組.inc)さん、西浦謙助(誰でもエスパー、SKAFUNK、進行方向別通行区分,ex相対性理論)さんたちがコメントを寄せている。彼らのファンも好きになるような、おしゃれな音楽性のアルバムだ。
しっとりと歌を聴かせるような曲もあれば、「人間関係地獄絵図」や「東京シティ」のようなソフトロックのバンドサウンドもある。
おぼろげな不安を運ぶようなピアノ。一方で、楽しい夢を見ているシンセサイザーの音色。曲を前に進める軽やかなリズム。そのうえにクリアーで天使のような歌声が乗る。それぞれの音の響きは柔らかな水面のように研ぎ澄まされている。
聞こえてくるのは、諦念と希望の中間地点で鳴らされる音。周りに馴染めないストレンジャーとしての自分を綴る歌。空気に溶け込めない自分の心を薄めた青い空のような歌。
周りに馴染めないのは僕も同じだ。
転校生の歌は、誰かを励まそうとするようなベクトルを持っていない。ただ静かに宙に横たわる歌。だが、私と同じだ、僕と同じだと思う人が熱心に耳を傾ける。
人は音楽を聴くとき、その音楽を作った人の世界に招きいれられるようにして聴くだろう。転校生の音楽の世界はもろくて危うい。強く触れてしまったらヒビが入ってしまうような。おそるおそる足を踏み入れた先に広がる繊細な魔法のような音世界。
これまでレビューしてきた神聖かまってちゃんや銀杏BOYZが実存と共にある音楽だとするならば、転校生は実存を軽くする音楽だ。聴いているうちに自意識も身体もどんどん軽くなっていく。そのうち、身体がふわっと宙に浮いて、気づけば僕は転校生の魔法にかかっている。
転校生「空中のダンス」
よーよー(@yoyo0616)