2014年上半期ベスト#4(KV)

「今年は豊作の一年でした。」というクリシェ。季節の変わり目が近づくと立ち上がるまとめスレの「今期アニメ豊作すぎワロタwww」というタイトル同様、うんざりするほど繰り返される文句に若干疲れすら感じる。「散財が止まらない(笑)」の一言を合図にネット上で奏でられる嬉しい悲鳴ドローン(多重奏)の、LAの人たちもビックリしそうなくらいに持続することよ。

そうだ、私は妬んでいるのだ。打ち立てられる上半期ベストを見て、こんなに音源買ってるの?そんなお金、どこにあるの!?と本当に不思議で仕方が無い。そして羨ましい。だからお金のない自分は上半期ベストや年間ベストの記事を眺めて、「この人はこういうセレクトをするのかあ」と楽しむと同時に、商品がぎっしり並んだスーパーで立ち尽くすあの多幸感も味わっている。ウィンドウショッピング、またはサーティワンのチラシでアイス無双(夢想)とでも言うような感じで。

そういう訳で、私は専らネットで音源を聴くことが多い。タワレコに行って試聴だけして帰って、bandcampとサンクラとYoutubeiTunesの試聴をアルバトロスの如く渡り続け、name your priceに頼り、どうしても避けられない作品の壁に出くわした時だけ音源を買う。そんな日々の中、特に6月は避けられない壁でハードル走をしている気分に陥った。お金という名の体力を消耗し続け、未だ完走出来ずにいる。ゴールはまだか、もう7月が始まってるのに.....。

以上を踏まえて、上半期ベスト15を組んでみました。やっぱりフィジカルあんまり買えてなかった...。一応、今年の作品オンリーで構成しました。アニメは「蟲師 続章」と「スペース☆ダンディ」、あとレンタルした「リトルウィッチアカデミア」、「つり球」、「万能野菜ニンニンマン」が良かったです。豊作の半年でした。

15. X.Y.R.『Arktika』<Constellation Tatsu>

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ロシアの作家による静かなドローン。タイトルから寒々しいアンビエントを想像するかもしれないけど、時間が止まったような、とても穏やかな空気が流れ続けていて、ふと気がつくと引き込まれている。​さすがConstellation Tatsu。

x.y.r.(Bandcamp)

14. Oneohtrix Point Never『Commissions I』<Warp>

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OPNがRecord Store Dayに用意したシングル。『R Plus Seven』のその先、より光が研ぎすまされ輪郭を持った楽曲には今まで以上に普遍的なメロディと響きに満ちており、宇宙の大聖堂の前で佇んでいる気分になる。​

 

13. Lower『Seek Warmer Climes』<Matador>

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コペンハーゲンより、Iceageと同じくMatadorと契約を交わしたLower。激情を一気に爆発させるのではなく、胸に内包しつつその時その時に吐き出していく態度には暗くも美しい叙情が宿る。ヒリヒリする雰囲気、やや細く雪崩れるギターリフも好みなんだけど、あと一、二歩でIceageのような輝きが発せられる気がする。2ndに期待してます。

12. Native Pro『NPC Narrative』<Psalmus Diuersae>

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かつてLAビートやチルウェイブが浮上しつつあるとき、アンダーグラウンドでは​OPNやHippos In Tanksの音楽家が胎動を開始していた。今度は彼らが浮上すると、次に地下で息巻いていたのはAlex GrayやLuke Wyatt、Saint Pepsiらだった。そして今、アンダーグラウンドで押さえきれない熱量を発しているのはSusan Balmarであることは皆も認めるところだろう。彼女も一枚噛んでいるという新興レーベルPsalmus Diuersaeからは才気煥発なアーティストが現れてくるはず。Native Proはそんなヴィジョンを補強する素晴らしい先鋒だ。

→NPC Narrative | psalmus diuersae(Bancamp)


11. yeongrak『ASCII GIRLS』<Business Casual>

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ウィッチハウスという言葉を最近あまり耳にしなくなったけど、ヒップホップと交配することで新たな可能性を私たちに見せてくれた。トリルウェイブは徒花になったのではなくインダストリアルブームやArcaみたいなディストロイドの影に隠れたんだろう。ウィッチネスとヒップホップビートの邂逅、​そこにvaporwaveが組み込まれたらどうなるか、今作はその最良の一例と言える。全体的に全ったくvaporの匂いを感じないが、最後のトラックでサンプリングされた一言は何か意味ありげとしか思えないのは私だけか。

ASCII GIRLS | Business Casual(Bandcamp)


10. Real Estate『Atlas』<Domino>

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ニュージャージーもとい、USインディー界の良心Real Estate。​5人編成になっても今までのアプローチを大きく変えることなく、瑞々しいソフトタッチのロックを届けてくれた。気だるさを感じさせるMatthewのギターも、洗練されたアンサンブルに組み込まれることでぼやける事も無く、どこか鄙びた豊かな風景を丹念に描いている。粒ぞろいの曲ばかり揃ったこのアルバム。中でも名曲『Talking Backwards』には心打つ瞬間が約束されている。


9. Les Halles『Invisible Cities』<Constellation Tatsu>

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信頼のConstellation TatsuがX.Y.R.と同時期にリリースした牧歌的アンビエント​。ジャケットから受ける印象そのままに、山や田畑を想起させる素朴な木管の音色と芳醇なノイズが美しく畳み込まれた全7曲の傑作。ニューエイジのような野暮を一切感じさせずに、南米フォルクローレをモダンなアンビエントの小品へと転換させるセンスに惚れ惚れします。見えざる都市というタイトルから穿った見方も出来るかもだけど、とにかくこの木綿のような手触り(耳触り)の音の紡ぎに包まっていたい。

Invisible Cities | Constellation Tatsu(Bancamp)


8. D/P/I 『08.DD.15』<Leaving>

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今を時めくAlex Grayはしかし、なんて多作なんだろう。Matthewdavidが火蓋を切ったLAの永遠の陽炎は、彼によってますます​輝きを増したが、そのフィードバックとも言えそうなD/P/Iサイドでのノイズ・ブリコラージュにおいてすら、悪夢どころか桃源郷的な異次元にしか感じられないとは。オプティミストを通り越して、何か全く別の世界と交信するコンダクターなのだろうか、彼は。ともかく、Alexの提示する音楽が凄くカッコイイことは確か。


7. may.e『REMINDER』<self release>

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合評に書いた通り、素晴らしい作品です。なので特に書く事はありませんが、今年リリース予定だという3rdアルバムがとても楽しみです(このEPは3rdが早くも完成してしまい、そこからカットオフして生まれた作品らしいので、期待を隠せません)。

REMINDER | may.e(Bandcamp)


6. FAME CULT『DO NOT MISS THE ACTION FAST DELIVERY OF QUALITY』<self release>

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国分さんのキープ・クール・フールで知ったグループ。バックボーンにジャズがあり、故Austin PeraltaやLouis Coleとも繋がりがあるそうで、確かにこの端正だけど捻れたポップネスには近いものがあるかも。ディスコテークなリズムマシンの上でフィドルが刻む響きには優雅以上に獰猛さを感じるのが面白い。浮遊感たっぷりに舞うGenevieveのボーカル、平熱を保ちながらもこちらの内面がじりじり熱くなるミニマルなアンサンブル、それらをさり気なく彩る瑞々しいメロディ。Italians Do It Betterも真っ青の素敵な逸品です。

DO NOT MISS THE ACTION FAST DELIVERY OF QUALITY | FAME CULT(Bandcamp)


5. Mac DeMarco『Salad Days』<Captured Tracks>

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​説明不要のヒーロー、Mac DeMarco。『2』に引き続きまたもや傑作を投下。前作には陽性のメロディの裏にえも言われぬ悲しみが漂っていたように感じたけど、今作ではその陰が顔を出していない気がする。恋人と移っているジャケからも彼が充実の日々を送っているのが伝わって安心。80'sオリエンテッドなレーベルの中で、Macの今作は射程も幅広くなり70'sまで伸びたことでより確かな強度を獲得した。全曲最高だけど、気負って聴く作品では決してない。青いギターのリバーブに身を委ねフロートし続けたくなる2014年必聴盤。


4. LONE『Reality Testing』<R&S>

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​夢を見るということを知っているというのは、現実を知っているから。というのは当たり前だけど、Mattも言うように全編がドリーミーでチルなこの6thが夢想100%で構成されている訳ではない。そしてどうすればリスナーの私たちを美しく気分の良い世界へ運ぶための切符を切れるのか、どうすればそこに長居させられるのか。その術を彼は知り尽くしていらっしゃる。七色に光る宇宙へようこそ!ヒップホップビートとハウスはある視差においては同値であるという考えは、こんなにも素敵な恍惚のフィールドを用意してくれた。


3. Lust For Youth『International』<Sacred Bones>

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魂を震わせる音楽は数少ないが、LFY『International』がそれだ。正直先行トラックを聴いたときは面食らった、というのもかつての作品はダークなインディ・フロアでどうしようもなく闇が蠢いていたから。影こそ不滅なものの、それがこんなにも眩い光を帯びたポップへと昇華されたとは、嬉しい驚きである。レーベルのロゴの如く、私の頭の中ではSacred Bones・Posh Isolation・Ascetic Houseを頂点とするトライアングルがあるが、ジャケの逆三角形の中心に残された余白は、世界を塗り潰さんとする光にすら思えてくる。これは始まりの足音だ、生を感じさせる胎動の調べなんだ。

2. Actress『Ghettoville』<Werk Discs>

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​そして死は訪れる。


1. How To Dress Well『"What Is This Heart?"』<Domino/Weird World>

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​力強い何かを感じさせる作品。Tom Krellの3rdはそういう作品だ。音の構造や特徴が気にならない。彼の声しか聴こえない。音も声を全て必要な要素だけど、そういう作品だ。彼は確実に殻を破った、そう思った。

 


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