アニソン連載#6 女性アニソンシンガー戦国時代、そしてシンガーソングライターへと戻っていく
草野です。お久しぶりになったアニソン連載です。
え、遅くなった理由?聞くな。去年個人的にやったベストアルバム2015で選盤した作品のディスクレビューを書いていて、加えて読書とWorld of tanksやっていたせいだとしても、それはそれで構わないでしょう?
しかしまああらためてこの連載と向き合って書こうと思い、ここ数年のアニソンOPやEDをまとめた動画を40分ほど見て思ったのが、
「新人シンガー出まくりじゃね!?」
ということだ。
アニソンタイアップのシングルを数枚出しているシンガーをパパっと思いつく限りであげると、
沢井美空(2011年デビュー)
Aimer(2011年デビュー)
broKen NIGHT/holLow wORlD(期間生産限定アニメ盤)(DVD付)
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ZAQ(2012年デビュー)
Philosophy of Dear World(DVD付)
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Ray(2012年デビュー)
春奈るな(2012年デビュー)
Candy Lips(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)
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Yun*chi(2013年デビュー)
綾野ましろ(2014年デビュー)
CHiCO with HoneyWorks(2014年デビュー)
ボンジュール鈴木(2015年デビュー)
TVアニメ「 ユリ熊嵐 」オープニングテーマ「 あの森で待ってる 」
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あたりだろうか。活動を休止している状態であろうazusaさんもこの中に入る。(蒼井エイルはもうアルバム発売などキャリアを積んでおり「新人ではないのでは?」というのが個人的認識)
そして以前紹介した鈴木このみも加えると、既に10名もの女性シンガーがこの3年程でデビューを飾っているのがわかる。
年間200本前後のアニメ作品数、そのOP・EDは400曲(!)にもなる。例えば、ぽっと出てきた新人の女性シンガーを起用する窓口にしては意外と広き門ではないか?と思いそうだが、以前アニソン連載で書かせていただいたときにも指摘したとおり、ここには以前まで活躍してきたシンガー、邦楽ロックバンド、さらに声優のソロ活動/それぞれのアニメ限定活動となるキャラソン・グループが加わり、とんでもないまでの競争率で奪い合いが繰り広げられているわけだ。
ではこの女性アニソンシンガーの大量デビューはなぜ起きたのだろうか?それは女性アニソンシンガーの年齢的な問題が大きいと思える。
2001年のデビュー以来現在まで最前線まで活躍し、『Animelo Summer 2005』から唯一全ての年に出演してきた栗林みな実は、今年でもう38歳を迎え(!)、彼女と同年代から活躍するKOTOKO、Liaも年齢が近いと思われる。
KOTOKO 「MUSIC VIDEO COLLECTION "26stories "」 [Blu-ray]
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この『ポスト"栗林みな実、KOTOKO、Lia"の座には、LiSA、May'n、黒崎真音といった10年近いキャリアを持つシンガーが近しいだろう。
Launcher(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)
- アーティスト: LiSA
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2009年ごろから活動を始めたやなぎなぎと、目下ヒットソング連発中の藍井エイルも加われば、5人のシンガーがその座を争うような格好を見て取れなくもない。
こうした状況を後列から見ながらも、虎視眈々とトップへと駆け抜けんとするシンガーが10名も出揃ってもいる、ということなのだ。
もう一度言うが、日本ではアニメ作品が年間約200作品が生み出され、OPとEDは単純に考えれば約400曲生まれる計算だ。これまでの実績・人気を買われて起用されることが多いこのシーンにおいて、人気アニメ作品に恵まれる(あるいは連発できる)というのは「強運」だと言え、新人女性シンガーが選ばれる場面は決して多くはない。そしてこれからは今まで以上に、音楽不況の煽りを受けたシンガーやバンドなどが介入し、声優ソングがより大きく台頭してくるであろう。
そんな中、新人シンガーはこのシーンにおいていかに勝ち得るのだろうか?少しだけ観念的に、しかしながら彼女らが幸運を得られるであろう術を、非常に当たり前であろうところに軟着陸させてみたい。
例えば声優がアニソンを歌う場合、それは歌うよりもむしろ、物語の中のキャラクターに憑依し、「演技する」という表現回路が多いように思える。(例にあげれば、水樹奈々がヒロインを務めるアニメを水樹本人が歌う場合、水樹本人の中で「ヒロイン視点で歌ってしまう」といったような)
その回路をうまく運用しているのがキャラクターソングであり、アニソンファンは「アニメの中のキャラクターが歌うのだから、その音楽は紛うことなき純度100%のアニソン」というような風体に捉える。つまり「アニメの物語を音楽という形を通して掬い取りやすくしている」といえばいいだろうか。
では、それとは別に「シンガーがアニソンを歌う」ならどういった形がいいのだろう?端的に言えばそれは「キャラクターを演じる」のではなく、直接「物語を歌う」ということではないだろうか。
ここでいう「歌う」というのは、ビブラートを効かせて抑揚のあるボーカルテクニックなどの技術には留まらない。人を振り向かせるような声質や声色という先天的才能のことだけでもない。シンガー本人がどれだけそのアニメ作品と同調して声にノせられるか、そうした理解力に根ざしたところにある。
声優は物語内でキャラクターを演じているというわかりやすいメルクマークを備えているがために支持されるが、そうではないシンガーの場合、作品を「咀嚼する」というコミットメントを通し表現すれば、自ずと道はひらけるのではないか。
「シンガー本人の咀嚼と理解力に根ざした」とは何だろうか?
簡単にいえば、作詞作曲をシンガー自らがする、アニソン向けシンガーソングライターになるということだ。
先に挙げた栗林みな実は持ち曲の半分近くを作詞作曲しており、この例のまさにお手本と言える存在。そう、言うなれば、アニソンシンガーは栗林みな実へと回帰するべきではないのだろうか?なんていう話なのだ。
そんなことを考えながら、新たに飛び出してきた10人を見てみる。元々作編曲家だったZAQを筆頭に、ボンジュール鈴木、分島花音、沢井美空は既に自作詞曲を発表しており、10人全員が何らかの楽曲で作詞を担当している。つまり彼女らの世代(あえて世代として考えて)には「作詞/作曲」というのは大切な武器であり、"ポスト栗林"として選ばれたようにも見える10人なのだ。
間違って欲しくはないのが、これまでも「作詞/作曲」という武器を使い、多くの方々が生まれては消えていったのがこれまでのアニソンシーンであり、一過性だけでは留まらせない強さを他に備えることも、また重要であろうということだ。
だが、人様が奏でる曲に、人様が物語を読み込み文字にした言葉を充てがい、自らはただそれを歌うだけでいい、それだけで売れる。そんな時代はもうそろそろ通り過ぎてしまうのではないか?時代の転換点はすぐそこにまで迫っている。
草野(@grassrainbow)