こんにちは、クラークです。
今回考察する曲はPerfumeの「Dream Fighter」です。
Perfume、CAPSULE、きゃりーぱみゅぱみゅに代表される中田ヤスタカの仕事はどうしてもそのサウンドに注目が集まりがちですが、詩作においても天才的な作品を数多く残しています。
「Dream Fighter」の前に、ひとつのサンプルとしてPerfumeの「575」を取り上げてみましょう。この曲では彼女たちがラップを初披露しており、そのリリックが素晴らしいものとなっています。
Perfume「575」
575で言葉遊び並べ ああキミの心探りたいの
123ゆるゆる過ぎてる 最終電車もう終わってる
「あーヒマなう」これってチャンス?
ポチポチボタンをプッシュなう
目をつぶって返信を祈る キミに届けこの気持ちを乗せて
「ねぇねぇ今なにしてるの?」
「そろそろ寝ようと思ってた」
あたしぜんぜん眠たくないけど
からの真夜中2人のせめぎあい
ナチュラルハイ 今日はもうgood night?
勝手な人 でも好きな人
おやすみ おはよう 季節はまだ終わってないよ
誰もが一度は経験した頃がある「相手から連絡がこない!」という不安。古くはビートルズやカーペンターズもカバーしたマーヴェレッツの永遠の名曲「プリーズ・ミスター・ポストマン」でも歌われたように、その不安は普遍的なものです。後半で描写される釣れない返事に感情がグチャグチャになるという経験も多くの人が心当たりがあるのではないでしょうか。可愛らしくサラッと書かれているようで深い断絶とやりきれなさを感じさせるリリック、お見事です。(少し歌詞の話からは脱線しますが、この曲の3分16秒から23秒頃における狂おしいまでの切迫感は一体なんなのでしょうか?ギターのせい?静かな狂気とでもいいましょうか。まさにナチュラルハイ)
さてそろそろ「Dream Fighter」の話をしましょう。この曲は彼女たちの8枚目のシングルであり、同時期に行われた初の武道館公演に合わせてリリースされました。そういった時期も相待って一聴するとアッパーな応援ソングにも聞こえます。実際リリース時あ〜ちゃんは「ド直球で学校の合唱祭で歌いそうなぐらいの前向きな曲」と語っていました。しかし同時にかしゆかが「ちょっと弱っているときに聴くと「うっ」なっちゃうような曲」と興味深い発言をしていたのを覚えています。
この曲は果たして単なる「応援ソング」なのでしょうか?ヴァースの歌詞をみてみましょう。
Perfume「Dream Fighter」
ねぇみんなが言う「普通」ってさ
なんだかんだっで実際はたぶん
真ん中じゃなく理想にちかい
だけど普通じゃまだもの足りないの
このままでいれたらって思う瞬間まで
遠い遠い遥かこの先まで
この曲はまず「たとえ理想に近くとも「普通」には満足できない」と告白するところから始まります。そして自分たちが目指すゴールはそういった「理想に近い普通」からさえも遥か遥か遠いところにあると宣言します。多くの応援ソングが「普通」もしくは「理想」をゴールとしていることを考えると、この宣言が応援ソングにしては異質であるとわかります。
そしてなにより注目すべきは、その遥か遠いゴールは「このままでいれたら」と願っても留まってはくれない「瞬間」であり、「状態」ではないという点です。つまりこの曲の主たるメッセージは理想的な「状態」よりも幸福な「瞬間」を追いなさいというとても刹那主義的なものです。Radioheadは名曲「nude」で「大それたことを考えるなよ。君は地獄に落ちるだろう。その汚れた心が考えることのせいで」と警告しました。現状に満足せず遥か遠いゴールを夢みて目指すことは足るを知らない人間の業であり罪といえます。
続いてコーラスの歌詞をみてみましょう。ぜひ音源と一緒に歌詞を追ってみてください。
最高を求めて終わりのない旅をするのは
きっと僕らが生きている証拠だから
一瞬のブレイクの後の「最高」の部分、そこが「さあ行こう!」と聞こえるのは僕だけではないと思います。「dream fighter」は罪深い行為に向かって僕たちを蹴り上げながら疾走してゆきます。そしてその業こそが人間の生きている証拠であるとまで断言します。
もしつらいこととかがあったとしてもそれは
キミがきっとずっとあきらめない強さを持っているから
そしてその罪に対する罰は甘んじて受け入れなさいと歌います。なぜならその罪はあなたの諦めの悪さ、あなたの業のせいなのだから、と。この曲は僕たちを突き放します。
僕らも走り続けるんだ YEH!
こぼれ落ちる涙も全部宝物 oh!YEH!
現実に打ちのめされ倒れそうになっても
きっと前を見て歩くDream Fighter
打ちのめされようとも倒れそうになろうともただ「走り続けろ」とだけ言い放ち、曲は加速を続けます。こぼれ落ちる涙が乾くほどにスピードをあげてこの曲は無慈悲に僕たちに呼びかけます。「夢の戦士たちよ!」
そう、「Dream Fighter」は単なる応援ソングではありません。現状に満足すること、平穏な場所に安住すること、足るを知ること、小さな幸せを見出すこと──、それらを殴り捨て身を焦がすような一瞬のエクスタシーを夢見てアクセルを思いっきり踏み込め!と僕らをけしかけるとても危険な曲なのです。
以上です。ありがとうございました。
以下お約束の蛇足です(笑)
いつも以上に常軌を逸した深読みでしたが、皆様楽しんでいただけましたでしょうか(´・Д・)」書いていて流石に心配しましたが、この蛇足ではさらに妄想を炸裂させてみます。
コーラスの「最高」が「さあ、行こう」と聞こえるのは前述しました。しかしその後の「求めて」が「もう止めて」に聞こえるのはさすがに考えすぎでしょうか?この曲で唯一吐かれる弱音。当然でしょう、だってゴールできるか、そもそもゴールがあるかどうかすら誰にも分からないのですから。しかしそんなSOSは圧倒的なスピードを前にあっという間にかき消されてしまいます。
走ったとしてこの先どうなるの?
さあ。それは神のみぞ知ることさ。コヨーテを追うロードランナーのように気付いたら下には何もないかも。それでも走れ。走るんだ。
「Dream Fighter」はそんな偉大なるロックンロール・ニヒリズムと共鳴しているように僕は思います。例えばジョナサン・リッチマンのこの曲と。
The modern lovers「Roadrunner」
くらーく(@kimiterasu)