ネットの音楽オタクが選んだ2020年のベストアルバム 50→1

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2020年は忘れることのできない年になりました。新型コロナウイルスの流行で様々な行動が制限され、僕らは自粛を余儀なくされました。生活からライブが遠のき、多くのフェスが中止になり、音楽に携わるあらゆる方々が苦境に追いやられました。

そのような状況のせいなのか、今年は集計に参加してくれる方々が例年より多かったです。音楽が人々の苦境の支えになったのかはわかりません。でも僕らが常に音楽に支えられている事実は変わらず、昨年も例年同様お世話になったことをつくづく実感します。

その恩返しとは微塵も思わないですし、むしろ序列化は作り手に対する裏切りような気がしないでもないのですが、それでもこの多くの人の協力で得られたデータが回り回って新しい出会いとなり、より多くの人に作品が聴かれることを願い、性懲りもなくこんな記事を作っています。

過去最高となる675人のデータを用いて作られた2020年のベストアルバム150枚です。ストリーミングへのリンク、プレイリスト、そして有志によるレビューもついています。「去年のアルバムは去年のうちに聴いておきたい」なんて言わず、すばらしいものはいつ聴いてもすばらしいので、ぜひ興味を持った作品を聴いてみてください。

最終日です。長々とお付き合いありがとうございました!(ぴっち)

 

このランキングについて
  • ネットの音楽オタクが選んだベストアルバムは音楽だいすきクラブ、及びそのメンバー等の特定の誰かが選んで作ったものではありません。
  • Twitterハッシュタグ、募集記事のコメント欄に寄せられたものを集計しています。
  • 675人分のデータを集計しました。
  • 募集期間は2020年12月1日から31日の間です。
  • 順位は「点数、投票者数、乱数」の順で構成されています。
  • 「点数が同じかつ投票者数も同じ」場合、乱数を発生させて順位づけしています。
  • そのため細かい順位に深い意味はありません。気にしすぎないでください。
  • 150位以内はすべて7人以上に挙げられたものです。
  • レビューは有志によるものです。100字以上500字以内ディス無しでやっています。
  • レビューは随時追加しています。興味がある方は@pitti2210にリプかDMをください

 

150→101はこちら

ongakudaisukiclub.hateblo.jp

100→51はこちら

ongakudaisukiclub.hateblo.jp

 

50. Oneohtrix Point Never『Magic Oneohtrix Point Never』 

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49. The Lemon Twigs『Songs for the General Public』

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懐かしさは、いつだって新鮮なんだ。いくら細部まで思い出してみても、あの頃と寸分違わず完全一致させて焼き直せないでしょう。そのズレを個性と呼んだり、魔法と呼んだりと着飾っては強がりたくなる。セピア色の現実が無いように、灰色の記憶が無いように、色を絶やさないでいたいね。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

48. King Krule『Man Alive!』

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もう完全に新時代の音楽界を担うドンのようなオーラをガッツリ纏うKing Kruleは、今作もジャンル分け不能な空気で、本来のオルタナティブとはこういうことですね……としみじみ。King Krule以降というか、サウスロンドン勢っぽいインディーロック、オルタナを感じる人が急増したここ数年だけど、こんなに異端でぶっちぎってる人はそうそういませんね。サイケな不穏さはそのままに、前作よりもパンクでヒップホップ寄りな部分あって攻撃力高め。ボヤけた音づかいはありつつも、乾いた質感の音に意識を向けたらしく、以前より輪郭がクッキリしている感覚がある。最初はピンとこなくとも、迷い込んだら抜け出せない中毒成分まみれな怪作っぷりは今回も顕在です。沢山の人を彼の白昼夢へと彷徨わせてほしいですね。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

47. mei ehara『Ampersands』

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レゲエやラバーズロック、ボッサ、R&B、ファンク、フォーク、ネオアコなどの要素を絶妙にブレンドしてるんだかなんなのか、コレだ!と形容できないインディーポップ・ソウルミュージックを奏でている。断片的に懐かしくて、それもまた新しい時代の温度を切り取っている。キセルLamp坂本慎太郎、ミツメあたりが好きならば、耳に馴染むこと請け合いの(白昼夢的な、幻想的なニュアンスで)サイケなムードが灯り、聴きようによっては少しストレンジで脱力感があり、じわじわと聴覚から脳に染みてくる。空間認識能力が弄られる気分さえなれそうな癒しのトリップ・ミュージック。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

46. Khruangbin『Mordechai』

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45. The Killers『Imploding The Mirage

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44. THE NOVEMBERS『At The Beginning』

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元号が変わり、環境も変わり、暗い気持ちで不安になることも多くなるだろう。無理に前向きにならなくても、過去を一区切りして再出発と定義することなら容易くできる。歪なカタチに見えようと、自分勝手に、自分の意思で始まりを位置付ける。そこからは、何もかもが新しい世界であり、まだ何にも始まってなく、ここからが本番だと。新しい痛みを伴うことを恐れないように、祝福してくれるかのようなアルバム。ハードでヘビーな音の破壊力は健在で、エクスペリメンタルとポップが完全に同居し、理性と本能が手を取り合いダンスをする世界。生と死の境目も曖昧にして、錯乱から逃げ惑うように意識を繋ぎ止める世界。連れてってくれるというよりも、景色をもっと愛せるように、哀しめるように。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

43. Thundercat『It Is What It Is』

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42. Adrianne Lenker『songs』

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41. ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』

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ここ最近の日本でまともなギターロックなんてまったくなかった。そんな中で学生ながらミュージシャンをやっていたギャルがめちゃくちゃカッコいいギターロックを鳴らしてしまった。多数のミュージシャンがべた褒めしていた今作。

楽器の音がめちゃくちゃ良いし、アートワーク、歌詞、ライナーも良い。そしてラブリーサーちゃんの声、キャラ、ビジュアルもこれ以上ないくらい最高なのだけどそこまで話題にならなかったのはやはり日本でもロックは衰退しているのだなと実感。でもこんなカッコいいギターロックを放っておくのは本当にもったいない。正直もっと売れてほしかった。

文人@FesNatsu

 

40. 寺尾紗穂『北へ向かう』

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生半可なチルなBGMでは届かない、心身の深部の芯まで、神聖な光を浴びるように浄化する肌の温もり。2020年のデジタルな機器からも、電気信号の交わりを通して伝わる音と言葉のコミュニケーション。アナログなそれを、抱きしめるようにパッケージしたノスタルジー

この強く生きねばと哀願するかの“エモ”は、流行りの慣用句のものでも、所謂エモーショナルロックのジャンル的サウンドとも違う、もっと遥か前から広く人の心に寄り添い共鳴する感情を乗せた歌の表現方法としてストレートに響く。以前より様々な伝え方が当たり前に混在する今の時代には伝わりにくいかもしれない。その逆も然りで、複雑化した中でシンプルに、ありのままの情緒と向き合える手助けとなる。勿論、時代性がどうとか関係なく、いつ聴いても穏やかに美しい名作になり得る。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

39. Yumi Zouma『Truth or Consequences』

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38. Mr.Children『SOUNDTRACKS』

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田原(Gt)の発案により、新たなバンドの可能性を求め全編海外レコーディングを敢行。これまでU2サム・スミス宇多田ヒカルらを手がけたスティーブ・フィッツモーリスを共同プロデューサーに迎え制作された結果、メンバーも驚くほどの進化がサウンド面に表れた。具体的には、「残響」と「音の選択・配置」。前者については特に「others」などで顕著だが、深い海の中で包まれるようでいて一音一音をしっかりと粒立たせる、圧倒的に懐の広いミキシングが印象的。後者については、例えば今回全10曲中8曲にストリングスが用いられており、それ自体も異常に素晴らしいのだが(特に「君と重ねたモノローグ」アウトロの凄まじさ!)、決して過剰にならず、曲の魅力を最大限に発揮することに対しての自然な選択であると感じる。今回初めてMr.Childrenと仕事をした海外のスタッフたちの、歌や曲への理解度や愛情が非常に深かったことが、このアルバムを名作たらしめている所以だろう。

メンバー全員が50代となりキャリアの終わりを意識し始めた(付属のDVDに収録のインタビューで桜井が発言している)デビュー28年目のレジェンドバンドが、また新たな金字塔を打ち立てた。

ひげ(@HIGE1989

 

37. Bring Me the Horizon『Post Human: Survival Horror』

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36. Sault『Untitled (Rise)』

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35. Rina Sawayama『SAWAYAMA』

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2020年を象徴する音楽作品は?と聞かれたら、私はコロナ禍以前にリリースされた本作を差し出す。

たとえばそれは、80sフィメールポップとLINKIN PARKを魔合体させたような、ヴォーカルとギターリフがやたら前に出る音圧の強さ。時に曲の内容と齟齬を来すほど迫り来るそれは、「ゼロ年代回帰」と呼ばれるムードの先駆けだ。

たとえばそれは、以前から疑問の目を向けられながら、何ひとつ改善へ向かわない種々のトピックが、満漢全席のごとく散りばめられるリリック。資本主義、男性優位、気候変動、家族との不和、マイクロアグレッションなどが各曲にこれでもかと詰め込まれる。サウンドもリリックも胃もたれ寸前なほどマシマシな本作は、そのマシマシさゆえに2020年を総ざらいしたかのようなフィーリングに満ちることとなった。

異性との交際・結婚・出産という単一のルートばかりがことさらに賞賛され、ひとつのことを突き詰めた人間だけが「プロフェッショナル」と呼ばれる世界線への、オルタナティヴなガイドとして。

まっつ(@HugAllMyF0128

 

34. Perfume Genius『Set My Heart on Fire Immediately』

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33. UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』

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結成16年、通算8枚目にしていまだに底が見えないバンドである。ここ数年鍵盤やホーンなどさまざまな楽器を導入した華やかな曲を数多くリリースしていたが、今回はギター・ベース・ドラムのシンプルな構成で鳴らされている12曲、45分間のロックミュージックが収録されている。野菜に例えるならここ最近ずっと創作フレンチのような作品だったのが、今回は新鮮な生野菜をそのまま味わっているような感覚である。

とはいえこれはただの原点回帰ではなく、激しさや複雑怪奇な掛け合いはエスカレートしつつ、本作でいう「夏影テールライト」のような胸を掻きむしられる切なさも過去最大級。さらにサウンド、歌詞の両面で各曲を繋ぎ、挙句CDの最後の曲と初回生産版付属のライブ映像1曲目まで歌詞の繋がりを持たせている。あまりに用意周到である。

唯一残念なことは、リリース直後の全国ツアーがコロナ禍により演奏時間の短縮及び感染対策の処置が行われ、結果リリースツアーに出来ず作品の世界観を表現するには至らなかった点である。2月からツアーが行われる予定なのだが、一体どうなることやら。

はちくん(@Hat_chyu

 

8枚目のフルアルバム。どんな時代においてもフォームは変えず、この音、この演奏、このメロディ、この言葉に揺るぎない自信を込めるその姿勢。変わりゆく世界の中で、変わらないことを貫き通したこのアルバムは誰の目も気にしない堂々たる佇まいを持つ。聴いているとエキサイティングな高揚感とともに、ほっとするような心地をもたらしてくれる。あぁここにユニゾンがいるんだ、という絶大な安心感。1曲ごとにあちこち情緒を振り回されながらも、この音が鳴っている間は大丈夫だって思わせてくれる。

「パトリックさん家の野菜」なんていう突拍子もない題を冠し、中身も《どうせ一聴じゃ読み解けない》仕掛けが満載で、効率よく万人を巻き込むにはあまりにも複雑な本作。世の本流とは真逆を行く作品性だがそもそも意義や目的よりも前に”楽しく在る”ことを大事にするバンドなのだからこういうアルバムに仕上がるのも当然。身を委ねるだけでも楽しいし、頭をフル回転させても楽しめる音楽ってこの上なく自由度が高くてワクワクする。めちゃくちゃだった2020年にも孤高なままで輝き続けてくれた。

月の人(@ShapeMoon

 

「Simple Simple Anecdote」や「夏影テールライト」なども好きなんだけど、個人的に注目のポイントについて触れなければと思い投稿。さてさて、印象的なイントロから少し捻くれたポップさが光る「スロウカーヴは打てない (that made me crazy)」は好きかい?なかなかトリッキーな名曲だろう。ハマっちまったそこのあなた、ぜひとも田淵の敬愛するバンド、throwcurveの「連れてって」や「表現は自由 (that made me mad)」を聴いてみるといいよ。でも残念ながら、それらのアルバムは入手困難だ。動画サイトで公式が「連れてって」のライブ映像をアップしてるから、それを見てみようか。イントロから一瞬で、リスペクトっぷりが判るからね。

こんなふうに、12月8日「グッドバイ」とBase Ball Bear「short hair」のような関係があると、影響元に認知されてほしい。洋レジェンドからの影響とかじゃなくて、アジカンやフジファブほど有名にならなかった素晴らしいバンドがたくさんあることに気づけるだろう。中村遼は数年前POLYSICSに電撃加入(去年脱退)。ぜひこの素晴らしい存在を、曲を、覚えていてほしい。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

32. Age Factory『EVERYNIGHT』

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より広いところへ届かせるために"人と人との共感"をテーマにした前作「GOLD」のリリースから約2年、これまで影響を受けてきた体験や振り回されてきた感情といった自分の中にある”原風景”との対話を通して完成したのが『EVERYNIGHT』。

各々が好きなように踊ることで全体感が生まれるライブハウスやクラブの情景を歌った「Dance all night friends」、夜通し遊んだあとに車窓越しに見る朝焼けのビーチから過ぎ行く時間への愛おしさを切り出した「HIGH WAY BEACH」、攻撃的なようで実は人を守るために自らを奮い立たせるメッセージが込められた「CLOSE EYE」や「Kill Me」など、自らの"原風景"と徹底的に向き合って作られた楽曲たちは彼らのパーソナルな経験や感情に紐づいているにも関わらず、リスナー各々の中にある”原風景”を想起させて共感覚を生み出してくれる。

本作のリリースは4月29日。緊急事態宣言による自粛の波とクラスター発生によりライブハウスやクラブに向けられる冷たい目に鬱屈していた僕らにこのアルバムが届けくれたロックバンドの力強さをこの先も決して忘れないだろう。

Ai(@Ai_Tkgk

 

31. RYUTist『ファルセット』

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このグループには千年に1人の美少女も、次世代グラビアクイーンも、令和のバラエティ女王も居ない。元祖ご当地アイドルとしての重厚な歴史も、全国区の知名度や事件性も、これといったわかりやすい文脈や因縁も無い。過激なライブパフォーマンスやプロモーションも無く、やりすぎた特典会で炎上することも不用意な発言でネットニュースになることも無い。ただひたすらに良い曲を連打するだけの、ただのアイドルグループ。たったそれだけでフェスに出ればTwitterのトレンドに上がり、アイドル楽曲大賞の上位に付け、やっと本ランキングにも名が上がった。

楽曲も、誰もが想像できるような王道アイドルソング渋谷系エレクトロニカ、またはインディーポップシーンの潮流を取り入れた。しかしながら、あえて特定のジャンルやキャッチコピーに括らず「ガールズポップ」の歴史と未来を全て背負うような多様性と、それらをしっかり乗りこなす技術が光る傑作である。

余談ですが、このクオリティは急成長でも突然変異でもない、ということは声を大にして言いたいと思う。

はちくん(@Hat_chyu

 

前作の『柳都芸妓』は終わりのアルバムで、『ファルセット』は始まりのアルバムである。『柳都芸妓』は自ら生まれた古町を題材にしたコンセプトアルバムであり、RYUTistの総決算ともいっていい作品であった。すべてを出しきった後、新しい方向をどう打ち立てるのか。そう考えた至ったことは、容易に想像できる。

そこで『柳都芸妓』での「夢見る花小路」(作曲はカメラ=万年筆、Orangeadeの佐藤望)の路線。つまりカラフルでグッドメロディー。さらになるべく若い作家を起用しようと考えたのが、『柳都芸妓』以降の流れであった。TWEEDEES、ikkubaru、シンリズム、猪爪東風(ayU tokiO)、弓木英梨乃とこの2年ほどは比較的若いバンドや作家が作詞や作曲を手掛けている。

そして『ファルセット』もまた、これまでの流れを組んだ作品である。本作は柴田聡子、パソコン音楽クラブなどの若き音楽家が楽曲提供している。中でも蓮沼執太が手掛けた冒頭の2曲は素晴らしい。蓮沼がRYUTistの新しい側面を引き出すだけでなく、自身の作家性もあますことなく出しきっている。ここからどんな世界を見せてくれるか、楽しみだ。

ゴリさん(@toyoki123

 

30. Disclosure『ENERGY』

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コロナが本格化し始めたとき、最初に諸悪の根元として槍玉に上げられたのは、大好きなライブハウスやクラブだった。音楽で踊る喜びを取り上げられ、大好きな場所が世の中の悪意みたいなものに押し潰されていく姿はとても辛く、底の無い絶望感に襲われた。

それから少し時が経ち、8月17日の26時。クロアチアプリトヴィツェ湖群国立公園から、DISCLOSUREのライブが配信された。そのライブはとてつもないエネルギーに満ちていて、気づいたら夢中になって踊っていた。狭くて、真っ暗で、生ぬるいたったひとりの部屋の中で、僕は音楽で踊る喜びを取り戻していた。ひとり踊る時間は孤独だったけど、この喜びを誰かも感じているのだと思うと、これっぽっちも孤独じゃなかった。

アルバムが発表された後は、このアルバムでたくさん踊った。ビートでも、リズムでも、メロディーでも、DISCLOSUREはその全てにエネルギーという名の想いを込めていて、その全てが僕を踊らせる。再生ボタンを押せば、その瞬間からいつでもその場所がダンスフロアに変わる。

今夜、ダンスには間に合う。散々な日でも、ひどい気分でも。今夜、ダンスには間に合う。諦めなければ。

ハタショー(@hatasyo5

 

29. The Avalanches『We Will Always Love You』

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28. Soccer Mommy『Color Theory』

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27. Sufjan Stevens『The Ascension』

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果てなき電子音楽と歌声のハーモニー。あまりにも壮大で神々しくって、眩しかった。何も押しつけていないけれど、ずっと叫んでるような……唸り、ノイズ、忙しなく差し込まれる音。5年前のアコースティックなアルバムとはまるで反対だが、以前のキャリアを総括するような集大成的豊かさ。暴れ回るビートもなんだか儚くって、複雑なキモチを抱え込んだまま共存する、終わらない毎日の中で我を失わないための指南書。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

26. King Gnu『CEREMONY』

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25. 青葉市子『アダンの風』

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24. Fontaines D.C.『A Hero's Death』

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23. Fleet Foxes『Shore』

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22. Moment Joon『Passport & Garcon』

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中学生の頃。僕の学校にベトナムの女の子が転入した。大人びて、可愛らしい彼女に、僕は恋をした。緊張しながらもいろいろ話しをした。彼女と一緒にいる時間はとても楽しかったと、今でも覚えている。しかしある一言をきっかけに、彼女とは話せなくなった。

「なんでそんなに日本語うまいの?」そう言った瞬間だ。彼女は泣きながら怒り出した。彼女はベトナム人だが、物心ついた時には日本にいた。だから日本語が話せるのは当然。なのに僕は自分たちとは違う「外国人」だと無意識に見ていたのだ。「酷いことを言った、謝りたい」そう思ったのは中学を卒業してからずっと後のことだ。

20年後。大人になった僕は彼女と同窓会で出会った。すぐに過去の行いを彼女に謝罪した。だが彼女は「あの時は私も『なんでわかってくれないの』と怒ったけど、日本の人から見たら私はベトナムの人だもね。私も考えが幼かったね。ごめんね」と逆に謝られた。その日は20年の時を埋めるように彼女と話をした。

もしこの夜を音楽にできるなら。そして20年前の無知な自分に聴かせてあげたい音楽があるのなら。Moment Joonの『Passport & Garcon』はそういう作品だ。

ゴリさん(@toyoki123

21. Mura Masa『R.Y.C』

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パンクやインディーロック寄りの攻撃的なサウンドが導入されたトラックに若者の怒りや反骨心を投影しつつ、『Teenage Headache Dream』で展開される恍惚状態を経て、孤独と虚無がワンルームに充満していくかのような寂寥感の中でこのアルバムは終わっていく。まるで、虚しい怒りにまかせて拳を振り上げたものの感情のやり場は無く、仕方なくドラッグを服用してトリップに至り、その後虚無感に包まれる様をアルバム全体を通して描いているかのようだ。

冒頭曲『Raw Youth Collage』にて語り部は《前に進む方法を見つけなくてはいけない》と呟く。その方法とは社会に対する怒りを具体的なアクションに変えることかもしれないし、あるいは何度でも訪れる虚無感と共生しながらステイホームでチルることかもしれない。奇しくも本作『R.Y.C』のリリース(2020年1月17日)から66日後、英国のロックダウン突入により、後者は社会にとって有効な戦い方となる。

でも私はこのアルバムを「ポスト・コロナ時代の予言」のように奉るのではなく、もうずっと前から若者が希望を抱けない時代になっていたことを忘れないために心に刻んでおきたい。

カラカル@Apteryx_lwk

 

20. ROTH BART BARON『極彩色の祝祭』

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本作を貫くテーマは生命の祝祭。いずれ平等に死ぬとはいえ、新型コロナウイルスが蔓延し、臨終を、葬送を、隔離・断絶されてしまうこの世の中では、死に方は選べないかもしれない。その瞬間には悲しみも感謝も伝えることなく、ただ命が消えてしまう。私にとっては彼(彼女、愛しいひと)はかけがえのない存在であるのに、ルールは無情だ。私たちがいまできることは、せめて生き永らえている生命そのものを祝うことではないかと、三船雅也は音楽を通し伝えてくる。

生命を祝うこととは、いままで自分の見聞きした物事や他者に対して注いでいた心血を、自分に還していくことだと思う。まわりに注いでいた自分の心、興味、慈しみを、自分自身に向け、よく対話し、自分自身の心地よさについて解像度を上げていく行為。それは自己愛という範疇を軽々と越えていく。自分だけでなく、他者に対してもいままで以上に愛することに繋がる旅となる。

この作品は、フォークロアな豊かで満ち足りた感覚を伝えてくれる。内側からじわじわとあたたかくなるその感覚が、生命を祝う味わいそのものではないだろうか。

やや(@mewmewl7

 

19. beabadoobee『Fake It Flowers』

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18. Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』

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狂気とエモが連鎖して爆発する、異形のポップミュージック。誤作動でレーザービームを乱射するメタリックなアンドロイドが人の皮を被り、ラーニングの末に人の血を通わせ、無差別に誘惑しては暴走する。そんな危うい存在を許してくれと叫んでるような温度の作品に聴こえる。新たな時代のロックスターはこうも進化してしまったのか。追いつかないギリギリ手前のところでスルっと離れてゆく残留思念体を、抱き締めるようにガッシリと捉えたい。耳が、脳が欲している。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

17. Fiona Apple『Fetch The Bolt Cutters』

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16. BBHF『BBHF1 -南下する青年-』

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15. The Weeknd『After Hours』

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「ポップミュージック」「ポップカルチャー」という言葉、ぜんぜん自分も使うけど、口にするとなんとなく気恥ずかしい。音楽が本当にポップな、「多くの人を楽しませる、日々を彩るのに欠かせない」存在だと胸を張って言える自信が、私にはない。少なくともこの国においては。クラスタの発生源として夜の街が十把一絡げに槍玉に挙げられたことを私は忘れない。「営業をやめろ」と貼り紙のされた飲食店の前を通ったこと、きっとずっと覚えてる。確かにそれらは不要不急だ。だが、命を繋ぎ止めるよすがになるのも間違いなくそれらだ。

そんな考えを巡らせつつ本作を聴いていた。頭から血を流して夜を歩き、ディスコやドラムンベースを乗りこなしながら《生きることを怖がらないで》と唱えるThe Weekndを支えにしたのは私だけではないだろう。誰かの怒りや傷つきの上にしか成り立ち得ない幸せと、ならばせめて思いきり楽しみたいという欲動がここには詰まっている。この国において本作は「ポップミュージック」ではないのかもしれない。だが、文化への白黒つけられない愛を肯定する本作が「ポップミュージック」以外の言葉で形容できるとも、私には思えない。

まっつ(@HugAllMyF0128
 

 

14. 赤い公園『THE PARK』

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5thアルバム。2018年にボーカルが石野理子(exアイドルネッサンス)に変わってから初のフルアルバムであり、セルフタイトルめいた題も相まって実質1stアルバムのようなフレッシュさを誇る。バンドのアイデンティティやストーリーを標榜する楽曲たちと、石野理子に当て書きされたであろう瑞々しいラブソングの数々が織り混ざりながら、悠々と新たなJ-POPを提示していくような作品だ。

前ボーカルが脱退した2017年から作られてきた膨大なストックから厳選された11曲はライブを通して何度もアレンジを洗練する手法によってこの上なく磨かれた逸品ばかり。どうしたって少し歪でどこか面白いものになる、というバンドの根っこをバンド自身が楽しんでいるように聴こえる。眩しい初期衝動の再発を祝福するような、喜びに溢れている。悲しい出来事もあった。けれどこの輝きは永遠だ。

月の人(@ShapeMoon

 

13. Dua Lipa『Future Nostalgia』

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《色褪せない曲が欲しいんだろ?私がこのゲームを変えてやるよ》と言い放った数ヶ月後に、世界の方がゲームのルールをごっそり変えてしまうなんて、リリース当初はDua Lipa本人も予想できなかったろう。あまりにも軽薄で、だからこそ煌めく希望のバイブス。一時もダンスフロアから降りようとしないディスコサウンドに乗っかる、あまりにも真っ当な生と性についてのリリック。

未知のウイルスが巷を駆け巡ってからというもの、本作の強度は薄まるどころかより強まったように思う。そりゃ、ダンスフロアが失われ、男の子が男の子のままな現状を指して「まさしく『Future Nostalgia』じゃん」とあげつらうのは簡単だ。本作に込められているのは確かに理想論だし、間違いなく綺麗事。だけど本当は、みんな綺麗事がいいんじゃないかな、なんて信じている。この軽薄さを取り戻す、ないしは新たな軽薄さが生まれる様子を目にすることはできないかもしれない。だとしても、より良い未来のためにやれることをやっていくしかない。「Physical」のエアロビ風MVを見て、ストレートにヘラヘラできるように。

まっつ(@HugAllMyF0128

 

12. 羊文学『POWERS』

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1stフルアルバム『若者たちへ』での鮮烈なデビューから、EP『きらめき』『ざわめき』の2枚を経て、ついにでたメジャー1stアルバム。本来であればフジロック2020にも出演予定であったということもあり、彼らの自力の高さを大衆的に知らしめる作品になっている。

なんと言っても冒頭の3曲が羊文学のこれまでを見事に表している。「mother」は『若者たちへ』で表現したようなオルタナティブロックをしっかりと土台とした力強い音楽で、彼らの持ち味であるコーラスワークが非常に良い。「girls」は『ざわめき』のリリース時には完成していたらしいということもあり、彼らのもつシリアスな一面が表れている。「変身」は『きらめき』で聴かせてくれた「甘く優しさに満ちた音楽」を表現している。《わたしが一番可愛くなきゃやだ。両手いっぱいのハッピーをつかんでなきゃやだ。》なんて歌詞も書けてしまうのは塩塚モエカの才能だろう。

最高すぎる開幕の後も「おまじない」「砂漠のきみへ」「1999」「あいまいでいいよ」など、捨て曲なし。2021年に彼らはどこまで飛躍するのか要注目。

ジュン(@h8_wa

 

メジャーデビューしても、音楽性はそのままにありのままの魅力をスケールアップしている。ボーカルの塩塚モエカの2020年は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやTOKYO HEALTH CLUB、蓮沼執太フィルなどの曲の客演で引っ張りだこだったが、やはり羊文学という自分のフィールドで歌う開放感と憂いのコントラストがとても良く生えると再認識。音の雰囲気はナードで儚いオルタナギターポップだけど、「変身」「powers」などでは意外とポジティブさがあって、確かにここら辺は曲調も明るめだが、こんなにも前向きなバンドだったのかと思ってしまう。他の多くの曲は安定の不安定というか、曖昧な想いの果ての孤独を鼓舞しようとしている。だからこそ、悲しくて辛い別れやスレ違いの感傷に溺れずに、あっけらかんとしていようとする気丈な精神でいようとする。今はもう葛藤の余地もなく、選択肢があるうちには何も言えずにいた。そんな接し方で傷がついては、忘れてしまうだろうと飲み込んでやりすごす。永遠に待ち人となるというその解を、肯定しようとする意思表示そのものがその人なりの『POWERS』。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

 

11. Mac Miller『Circles』

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置き土産というには重すぎて、もっと軽やかな心境で、愛でるだけでいい。ただ、誰かに聴かれて、誰か喜んで満たされることがあるという当たり前も、ぜんぶ愛おしいように響く。自己満足だけど、聴いてくれると嬉しいな。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

「ヒップホップの流れるBARは良いBARだと思うんだよね」って誰に言われたのか、未だに思い出せない。ただボーッと飲みたい気分で行ったBARで流れていたのがこのアルバムだった。流れている曲に意識がいったのは2杯目の終わりかけの頃。それまで曲に意識がいかなかったことに気付いて、冒頭の言葉を思い出した。

美しいメロディに乗る低い歌声、物事の終わりに向かうような歌詞がとにかく好みで、一年間本当によく聴いたし、これからもずっと聴くであろうアルバム。このアルバムがヒップホップなのか自分にはわからないが、あのBARは良いBARだったに違いない。
かめ(@kame16g

 

10. 米津玄師『STRAY SHEEP』

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米津玄師は釈迦である。

BOOTLEG』をリリースしてからの米津玄師は感覚のリベレーションから、パワーのエクスキューションにさしかかっている。「Lemon」、「Flamingo」、「TEENAGE RIOT」、「海の幽霊」、「馬と鹿」「パプリカ」。『BOOTLEG』をリリース以降の楽曲どれもが、その時代を代表し、毎日のように、ラジオ、テレビで聴く。まさに現在の米津玄師の疾走に大衆だけがついていっている状態だ。すなわち『STRAY SHEEP』がこのストリーミング配信全盛の時代にミリオンヒットを記録したことは偶然ではなく必然であるのだ。

パワーのエクスキュレーションを行う米津玄師の歌は会者定離の思想だ。米津玄師の歌は有限的であり、刹那である。だからこそ私たちは米津の歌に生の輝きを見いだす。2020年。リトル・リチャードが亡くなった。エディ・ヴァン・ヘイレンも亡くなった。だが米津玄師は歌っている。自らの会者定離を歌に昇華させた米津玄師は世俗の会者定離へも鋭敏に反応し、自分の歌にくり込んでさらに大きくなるだろう。米津玄師は釈迦なのだ。

ゴリさん(@toyoki123

 

9. The Strokes『The New Abnormal』

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8. Haim『Women in Music Pt.Ⅲ』

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7. Taylor Swift『folklore』

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2020年を象徴していたアルバムだと思う。コロナのパンデミックであらゆる予定がキャンセルされ、自宅に籠もることを余儀なくされるのは僕ら庶民もポップスターも同じで、むしろだからこそ今作が生まれたのだから何が幸いするのか世の中本当にわからない。The Nationalのアーロン・デスナーに制作を申し入れ4月からリモートワークで制作が始まり、7月の終わりにはアルバムが世に放たれた。テイラーとプロデューサー陣の真摯な姿勢が支持されていたのも少なからずあると思う。

それはそうとしてこの森に佇むテイラージャケットを見ていると、ロックダウンってこんなだったなーと思う。今もそうだけど、極力人との関わりの少ない生活を送るのは誰だってきっつい。自分の頭の中をぐるぐる回るような内省の毎日。気は滅入る。だけど、その閉ざされた日々にも価値はある、価値を生み出せるということを、彼女が一義的に示したかったとは思わないけど、でもやっぱり励まされた気がするんだよね。人の模範になること、モラルを大事にすること、そんな当たり前のことが全然当たり前じゃなかったから。

ぴっち(@pitti2210

 

6. Phoebe Bridgers『Punisher』

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アンビエントな響きのあるアコースティック「Garden Song」、この人なりの“Kyoto”を描いた広大なノスタルジー「Kyoto」、Elliott Smithリスペクトで、最大級の儚さが注ぎ込まれた「Punisher」。序盤から美しくも澄んだ空気で孤独を吐き出している。シンプルな「Halloween」を通過し、「Chinese Satellite」の明確な力強いアレンジから「Moon Song」と宇宙規模の想いを馳せるように、バトンを繋いでいく。「Savior Complex」の少しメルヘンチックな音づかいに溶け込み、ノイジーでエモーショナルな「ICU」、穏やかなカントリー「Graceland Too」。そして待ち構えるは後半に爆発的な展開を迎える「I Know the End」。

人は大きな終わりに気がついてしまったとき、どう折り合いをつけようか。向き合って受け入れなければならない。このガイダンスは誰かの空想を旅行するように、飛び回る意識のメロディ。一曲の中に陰陽を混ぜ合わせ、勇敢なまでに整えられた音楽となり、不特定多数の耳に届いてゆく。果てしない追憶の先から目を離さない為にも、広く共にあるべき音色だ。

ラニワにて、わど。(@wadledy
 

 

5. サニーデイ・サービス『いいね!』

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先日のライブで曽我部さんが『いいね!が2020年に世界中で出たアルバムの中で一番良いアルバム』と冗談でもなく真顔でもなく素で言っていた。普段そういう事言わないので本当に客観視して言っていたと思う。先にリリースされた『雨がふりそう』がめちゃくちゃ名曲なのに収録されず、ここ数年のサニーデイ曽我部作品からは想像していなかった感じだったので、そう来たか!やられた!と思った。

丸山さんを亡くし、ドラムが加入した部分も大きく影響しているであろう。それにしてもここまでのベテランバンドが過去に回帰もせず、ここ数年のアップデートも踏襲せずこんなに痛快なロックンロールを鳴らしてくるとは思わなかった。単純に「いいね!」と思える作品。曽我部恵一恐るべし。

文人@FesNatsu

 

何度でも新しい青春が甦る。いつだって最前線に喰らいつく、不死鳥のようなバンドが新体制で鳴らした初のアルバムは、未だかつて無いほどの若々しさで漲っている。渋さも若さも底上げして怪物級のエネルギーで突っ走る、ロックバンドの鑑。バンドの長いキャリアの中でも特にダイナミックな疾走感のあるキラーチューン「春の風」を聴いただけで、またひと味もふた味も違うネクストステージへと辿り着いたのが分かる。流行りの異世界転生なんてせずとも、キャリアを積み重ねた末に自ら切り開いた世界で勝負し続けるアツいバンドの、全速力の再スタートダッシュ

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

4. GEZAN『狂(KLUE)』

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「結局のところ何も変わっていない」

コロナ感染者数が増加する師走の夕暮れに、私は満員の電車の中でGEZANの『狂(KLUE)』を電車の中で中目を瞑りイヤホンで聴いていた。GEZANの本作がリリースされたのは、まだコロナが拡大する出る前であった。『狂(KLUE)』が出た当時でも民衆への怒りを全面的に出していたが、そのムードに対して「なぜ彼らはそこまで怒っているのか?」と思われた人もいるかもしれない。

だがこのコロナ禍の以降に起きた日本の問題は『狂(KLUE)』の内容を表面化させた。政治、経済、ネット……2020年のニュースで取り上げられた内容は『狂(KLUE)』という作品を立体的に見せる最高の作品レビューであった。そして同時に闘争と分断の時代において、音楽は何も変えてくれなかったことを証明した。

「いつまで私たちは苦しい日々を続けないといないのか」そう思ったときに「I」が流れた。《ちゃんと笑えるだろう ちゃんと笑うんだよ そのために生まれてきたんだもの》僕の目から涙があふれた。GEZANは平坦な戦場で戦う私たちの味方となり、支えてくれる。僕らはまだ戦える。そんなことを思いながらまた今日も仕事場へ行く。

ゴリさん(@toyoki123


血で血を洗い流す暴動のエネルギーの火種は、適度にロジカルに、野蛮かつ真摯に。快楽主義者の特権を根こそぎ奪うかの如く、冷静と情熱、表裏一体のマインドを今こそ発散させるパワーが必要だ。理由は幾らでも転がっている。後はちょっとしたきっかけと、舞台さえあれば。東京の名の下に、マジョリティやマイノリティは度外視して、思い思いに叫ぶ。祭りの怒号は腐った圧力じゃなく、心躍る生命力の証明。興味本位で踏み外したレールとは別れて、壁を壊して開拓する道。全部の音がファンファーレではないか。半狂乱じゃまだ生温い時代で強く戦うことをサポートするのは、こんなハードコアだった。

ラニワにて、わど。(@wadledy

 

3. Tame Impala『The Slow Rush』

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2. 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』

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岡山県出身の23歳。第一言語が音楽、第二言語が岡山弁、第三言語が英語。2008年からアップロードしているYouTubeのカバー動画ラインナップに育まれた、歌謡曲・ポップスの豊潤さとおしゃれさを血肉化した音楽性。喋るとふわふわ、考え方はシンプル、中身はきっとインドの聖人。本作はデビューアルバム。

彼の名前でもある、風は、人や事象に優劣などつけない。そこにあるものに対し、ただそのものの感覚を撫でてゆく。吹かれた心地だけは肌に残り、きらめきや激しさとして視覚や聴覚に残る。風が通り過ぎたことは、それぞれの体が感じた事実であり、記憶となる。
藤井風の音楽は、そういうものだと思う。いまここで口にしたい言葉を、いまここで音楽にし、いまここに流れる絶対性を孕んでいる。

地球全体が風の時代に入ったいま、藤井風の時代になることは仕組まれた必然だといえる。これから知る人の中にも、心にはすでに藤井風が存在しているのではないか?1人1風。これが実現していくたび、私たちは、いつも助け、決して傷つけない世界に近付いていける。

やや(@mewmewl7

 

1. The 1975『Notes on a Conditional Form』

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『仮定法に関する注釈』。本を読むうえでは、注釈ってやつは正直ノイズだ。内容の理解には役立つが、本文の持つ味わいや勢いが削がれてしまう。本作もグレタ・トゥーンベリのスピーチで始まったかと思えばマリリン・マンソン顔負けのパンクチューンに飛んだりと、突っかかるポイントが多い。歌詞も楽曲同様まとまりがなく、「People」で《クソみたいな世界でベストを尽くすしかない》とぼやきながら「Guys」では人生最高の瞬間をいくつも切り取っていたりする。

でもそれこそが、趣味趣向から価値観、セクシュアリティまでもが目まぐるしく変わり、矛盾を常に抱きかかえている存在こそが、いち人間なんじゃないのか。オンライン上の人間関係において私たちは、自分以外の他者を「あいつはこういう奴なんじゃなかろうか」と『仮定法』で決めつけてしまいがちだ。

しかし、SNSで見せる姿が自分の全てなワケがない。人間は多面体で、歪なパッチワークなのだ。本作はマシュー・ヒーリー自身のドキュメントに過ぎない。しかしそうであるがゆえに、彼のアカウントへ何百回、何千回、何万回と向けられた『仮定法』に対する異議申し立て≒『注釈』としても成立している。

まっつ(@HugAllMyF0128

 

ネットの音楽オタクが選んだ2020年のベストアルバム 50→1

1. The 1975『Notes on a Conditional Form』
2. 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』
3. Tame Impala『The Slow Rush』
4. GEZAN『狂(KLUE)』
5. サニーデイ・サービス『いいね!』
6. Phoebe Bridgers『Punisher』
7. Taylor Swift『folklore』
8. Haim『Women in Music Pt.Ⅲ』
9. The Strokes『The New Abnormal』
10. 米津玄師『STRAY SHEEP』
11. Mac Miller『Circles』
12. 羊文学『POWERS』
13. Dua Lipa『Future Nostalgia』
14. 赤い公園『THE PARK』
15. The Weeknd『After Hours』
16. BBHF『BBHF1 -南下する青年-』
17. Fiona Apple『Fetch The Bolt Cutters』
18. Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』
19. beabadoobee『Fake It Flowers』
20. ROTH BART BARON『極彩色の祝祭』
21. Mura Masa『R.Y.C』
22. Moment Joon『Passport & Garcon』
23. Fleet Foxes『Shore』
24. Fontaines D.C.『A Hero's Death』
25. 青葉市子『アダンの風』
26. King Gnu『CEREMONY』
27. Sufjan Stevens『The Ascension』
28. Soccer Mommy『Color Theory』
29. The Avalanches『We Will Always Love You』
30. Disclosure『ENERGY』
31. RYUTist『ファルセット』
32. Age Factory『EVERYNIGHT』
33. UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』
34. Perfume Genius『Set My Heart on Fire Immediately』
35. Rina Sawayama『SAWAYAMA』
36. Sault『Untitled (Rise)』
37. Bring Me the Horizon『Post Human: Survival Horror』
38. Mr.Children『SOUNDTRACKS』
39. Yumi Zouma『Truth or Consequences』
40. 寺尾紗穂『北へ向かう』
41. ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
42. Adrianne Lenker『songs』
43. Thundercat『It Is What It Is』
44. THE NOVEMBERS『At The Beginning』
45. The Killers『Imploding The Mirage
46. Khruangbin『Mordechai』
47. mei ehara『Ampersands』
48. King Krule『Man Alive!』
49. The Lemon Twigs『Songs for the General Public』
50. Oneohtrix Point Never『Magic Oneohtrix Point Never』

 

プレイリスト

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